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昭和の残像シリーズ①祖国愛、瀬島龍三の謎生きA

 「昭和の生き証人」の瀬島龍三氏が亡くなったのは、もう11年前の、2007年9月5日のことである。山崎豊子の『不毛地帯』の主人公・壱岐正中佐のモデルと言われた人物でもある。            img_0[1] 瀬島龍三

 瀬島氏は、11年間の厳しいシベリア抑留から帰還して、伊藤忠商事の会長にまで昇り詰めて、第2次臨調の参謀役や中曽根内閣のブレーンとなって政財界で活躍した人物である。

 瀬島龍三氏は、日本軍の参謀として、戦中・戦後の謎に大きくかかわった人物であるが故に、この人ほど誤解されている人も少なくない。そのミステリーの部分に迫ってみることにする。

 瀬島龍三氏は、富山の、ある農家の村長の家に生まれて、陸軍士官学校を次席で、陸大を首席で卒業して、参謀本部に5年以上も在籍して、日米開戦の命令書を書き、日本軍全体の作戦を立案し、ソ連との終戦交渉を担っている。

 終戦前の1944年には、連合艦隊参謀として、戦艦大和に乗船したり、ソ連に出張して日ソ不可侵条約の延長交渉を行っている。帰りにソ連軍が、極東に大量の兵力を移動しているのを目撃して「日本は、8月以前に戦争を終えないと大変なことになる」と、鈴木貫太郎首相に戦争の早期終結を進言している。

 終戦を間近に控えた1945年7月1日に瀬島中佐は、関東軍作戦参謀に任命されて満州へと赴任する。そして日本降伏後の8月19日に、瀬島中佐は、関東軍の軍使として、ソ連と終戦交渉を行った。

 この終戦交渉の席上で、「ソ連への国家賠償として、日本将兵らの労務提供を認める」という約束をしたという「ソ連との密約説」が流言としてあるが、瀬島は「根拠のない虚構である」として一蹴している。

 著作の『幾山河』でも瀬島は「『ソ連との密約説』を唱える人たちは、明確な根拠を示してほしい。停戦協定交渉の責任者には、そのような『密約説』を結ぶ権限はなかった」と再度反論している。

 しかし依然として「瀬島が、隠れ共産主義者で、ソ連工作員」とみなしていたのが、松本清張をはじめとする左翼の面々である。

 また元警察官僚で、初代内閣安全室長の佐々敦行も、中曽根政権の官房長官で、元警察庁時代の上司である後藤田正晴に「瀬島が、ソ連のスパイであったことは警察庁内では公然たる事実であった」と、瀬島の取り調べを進言している。しかし瀬島が、中曽根内閣のブレーンとして活躍していたので、後藤田は、一切を不問にした。

 瀬島と一緒に働いていた野地二見は、「『ソ連との密約説』というのは、瀬島ら関東軍参謀が、『天皇を助けるためのバーターとして、一般市民を売った』と、強制収容所の被害者に思い込ませ、洗脳させるソ連側の工作であった」と、証言している。

 また野地は「瀬島を批判する評論家たちは、参謀本部での作戦計画は、開戦から終戦まで、まるで瀬島がすべて計画し、それが敗戦に導いたかのように思い込んでいる。これこそが瀬島認識の根本的誤解であり、とんでもない瀬島参謀神話の元になっている。これは陸軍の統帥の中枢である参謀本部の伝統、組織、能力、そして作戦・計画作成の実態について、あまりにも無知であると言わねばならない」と批判している。

 瀬島中佐は、軍使としてソ連側と停戦交渉したので、国際法上は、内地に帰還することが出来たにもかかわらず、ソ連軍は捕虜として扱い、過酷なシベリア抑留とされてしまうのである。

 瀬島は、捕虜として労働義務のない将校であったにもかかわらず、強制労働を強いられて建築作業の左官に従事した。

 ある日、瀬島は路端の石を拾って、それを仏として、ソ連兵に気ずかれないように拝んでいたという。シベリアでの過酷な条件の中で労働しなければならない瀬島を支えたのは、「仏への信仰心と、いつかは日本に帰れる」という希望であったろう。

 瀬島は、捕虜に対する不当な扱いに対しては身を挺してソ連側の責任者に抗議したために、自身も危険な立場に立たされることもあった。

 1946年9月17日、連合国側から極東国際軍事裁判に証人として出廷することを命じられ、東京に護送されて、訴追側証人として出廷した。

 あらかじめソ連側より、日本への帰還の取引条件として、昭和天皇の戦争責任を証言するように求められたが、断固拒否した。この時の極東裁判での瀬島中佐の毅然たる態度で証言する写真が残されている。

         04dd1bd9[1]

 裁判後、再びシベリアに戻されて、11年間の残りの抑留生活を余儀なくされた。よく生き残ったものである。

 戦後は1956年に、やっとシベリア抑留から解放されて帰国した。「舞鶴港が近ずくに連れて、船上から祖国日本を見た時に、涙が止まらなかった」ということが、『幾山河』に書かれている。アメリカは舞鶴港で瀬島を1週間にわたり拘禁尋問した。続く

 

 

 

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